ぼくの世界では

君野世界 on 表裏一体

夏になるといつも蜘蛛が巣をつくる

 

 

 

 

  階段を上がって振り返ると正面に見える窓に足の親指くらいある蜘蛛が毎年巣をつくる。そもそも蜘蛛はそんなに苦手じゃないし、窓の内側には入ってこないのだから気持ち悪いと思ったことはない。なかなかセレブな生活に見えるので来世では蜘蛛もいいかなと思う。

  ぼーっと観ていると、まずは巣にかかった蛾を食べている。葉と蛾の識別はできないようで、葉を食べようとして辞めることも何度かあった。同じ葉を食べようとすることもあったので、それほどには頭がよい訳では無いのだなと思った。

   次に縦の糸を引きはじめた。重力をつかって下に引く。上に引くのはどうやっているのかわからない。夜なので何かをつたっているにしても何も見えない。縦の糸は粘着性が無いのだろう。八方向に引いたところで終わった。

  蜘蛛が体制を変え、最後の仕上げに差し掛かったところで、わたしは観察を終えた。蜘蛛を観てもなにも満たされないことに気づいたからだ。ついでに、自分が満たされていなかったということにも気づいてしまった。

 

 

  その夜は、寝る前に今年入ってから最悪の知らせを聞くことになる。「消えてなくなれ」と呟いた。腹を立て涙を流す対象はいるのだがそれらの行動は自分のエゴなので、その対象をどうにかしてやりたいと思うのは道理に反すると心底理解している。そのため、世界中全員が、むしろこの世界自体がなくなってしまうことで、誰も傷つかずにこの思いを亡くすことができる。そういうひねくれた気持ちで、いくつか全てを破壊する類の言葉を思いついては心の中で消していった。

 

 

  朝になって心は穏やかだった。

 

 

  また夜が来た。昨日から続くこの破壊的な心の始末が見えてきた気がする。頭の中の誰かが「もっと絶対的になるのだ」と言ってきて納得した。自分が絶対ではないと思うがために、自分の立ち位置を脅かすような存在を本気でおとしめようと思ってしまうのだ。ああ、情けない。こんなように生きていきたくはない。愛を引き延ばす力さえあればもっとよく生きられるのに。

しかし来世までは待てない。